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─二十五章  決戦 ・ 下(1)─



「ガルナーク・セラ・アシュテナ」

味方をも巻きこみ容赦なく砲撃を続ける『ギ・ガノア』の展望台で、なすすべもなく眼下の状況をながめていたガルナークは、ふいに背後から名を呼ばれふり 返った。

内部へと通じる入口に、武装した一人の娘が立っていた。金の縁取りがされた短めのケープが特徴的な白い装束。身体の各所をおおっている同色の防具。奇妙な 形をした籠手につつまれている右手とはちがい、手袋のみにおおわれている左手には、黒い刀身の剣を下げている。

「なんだ……貴様は?」

ガルナークは当然のごとく眉をひそめた。自分の前にいきなり現れたこの人物が、セラーダ軍の人間でないことは一目でわかる。しかし、頭にある兜だけは、ど う見てもシリオスの「黒の部隊」のものだ。その中からこちらをにらんでいる顔は、少 女と言えるほどに若い。

「女? 何者だ。どこから入ってきた?」

威嚇的な調子で問いただしたガルナークだったが、得体の知れない少女の姿に、ただでさえ困惑している思考に拍車がかかりそうだった。

そもそも、目の前の相手は現実のものなのだろうか。『ギ・ガノア』には自分と技術士官達しか乗っていないはずだ。こんな娘がこの場に存在することの方がお かしい。

ガルナークは用心深げに相手を見つめた。引き結ばれた唇。しっかりとこちらに据えている視線。その身にまとう白い服が風にはためく音──少なくとも、この 娘が現実の人間であることはたしかなようだった。

「八年ぶりだというのに、ずいぶんなご挨拶ね」

やがて少女が話しかけてきた。こちらを見知っているとしか思えない声の響き。だが、自分に対してこんな口の利き方をする相手に心当たりはない。

「お久しぶり──叔父様」

彼女が兜を外す。明るい栗色の髪が風に流れる。それが包んでいる美しく整った面立ちと、内心の感情を抑えているような青い瞳に、ガルナークはさらに目をこ らす。

叔父様>氛汨且閧フ口にしたその言葉が、頭の中で幾度も繰り返される。

だしぬけに呼び起こされた記憶。その中にある小さな女の子と、目の前に立つ娘の姿が重なった。

ガルナークの目が限界まで見開かれた。

周りの状況も、自分自身の立場でさえも、何もかもが頭から消しとんだ。気づかず後ろによろめいた身体が手すりにぶつかる。

「バカ……な」

もはや平静をなくした声がつぶやく。自分を叔父と呼ぶ者はこの世界に一人しかいない。いや──いなかった≠フだ。

「思い出していただけたのかしら?」

少女が冷たくたずねる。

「そんなバカな……」

やはりこれは幻ではないだろうか? 戦況のあまりの混乱ぶりに耐えきれなくなった頭が見せている幻覚。もしくは、この『楽園』という地で起こっている理解 を超えた現象の一つ。なぜならば、こんな──

「こんなことが……あってたまるか!」

「ひどい言いぐさね。たった一人の姪だというのに」

あくまでも否定しようとするガルナークを蔑むように見つめながら、少女は懐を探って何かを取りだし、こちらに向けて放り投げてきた。

宙を舞う小さなきらめき。

ガルナークは動揺に振るえる手でなんとか受け止める。それは指輪だった。美しくあしらわれた彫刻がえがいているのは──まぎれもないアシュテナ家の紋章 だ。

思わず息をあえがせた。この指輪が偽物でないことは、子細に調べるまでもなくわかる。なぜならば、それが長年にわたって亡き兄の指で輝いていたのを、嫌と いうほどこの目で見てきたのだから。

とうに失われたはずの指輪。そして、とうに失われたはずの──

ガルナークは少女に視線をうつす。相手は黙ってこちらを見ている。

「レアリエル……」

「ようやく認めてくださったのね。うれしいわ。叔父様」

二度と口に出すことはあるまいと思っていた名前に相手が応じる。押し殺した声と張りつめた顔……それらは記憶にあるものと大きく異なっているが、もはやガ ルナークには受け入れるしかなかった。目の前にいる娘は、かつて可愛がっていた姪が年月を経て成長した姿なのだと。

「だが、お前は……」

「死んだはずだ。いえ、シリオスが殺したはずだ。そう言いたいんでしょう?あいにくだったわね。わたしはこうして生きているわ。でも、今はそれをあんたに 長々と話してあげてる時間はないの」

レアリエルが淡々と紡ぎだす言葉を、ガルナークはただ愕然と聞いているしかできなかった。彼女が生きていたという事実。信じられない。信じたくはない。だ が、どれほど頭の中で拒絶しようと、姪の姿は以前として存在したままだ。

「鍵をよこして」

「鍵?」

言われたことの意味がわからず聞き返した。

「この獣の心臓を停止させるための鍵よ。あんたが持っていると聞いたわ」

「『ギ・ガノア』を止める? 儂を……殺しに来たのではないのか?」 

いまだうわずった声のまま、ガルナークはたずねた。首を刎ねられるのを間近にした罪人そのままの心境。八年前、自分がこの少女にした仕打ちを思えば、彼女 がここにいることの目的はそれ以外考えられない。

「ええ……殺してやりたいわ」

ぞっとするほど低い声を発して、レアリエルが顔を歪める。

「あの日からずっと……わたしはあんたとシリオスを憎んできた。いつかこの手で殺すことを父と母と自分に誓って、それだけのために生きてきた。こうし て……あんたの目の前に立てる日を夢見ながらね」

かたく握りしめた彼女の手にある黒い剣に、ガルナークは目をやった。

「だけど今はちがう。わたしには、あんた達を憎む以上に大事なことがある。祖先が起こした、このくだらない戦争を終わらせるってことが」

「そ、それは儂だって同じだ」思わず返す。

「『虫』共を駆逐し、『楽園』を取り返し、この世界に再び人の繁栄をもたらす。祖先の掲げた理念を信じ、そのためになら何だってやると誓ったのだ。だから こそ──」

「その結果がこれじゃない!」

相手がついに感情を爆発させた。叫びながら、眼下に広がる混沌とした戦場を荒々しい手ぶりで指す。

「あんたの信じる祖先が造ったこの兵器が、今やっていることを見てまだわからないの? 彼らは後の人間のことなんてこれっぽっちも考えちゃいなかった。た だ自分達の憎しみを晴らしたかっただけ。何もかもが嘘。みんなそのために利用されたのよ!」

反論できなかった。姪の言うことが事実であることが、すでにガルナーク自身にもわかっていたからだ。セラーダのすべてが、この『ギ・ガノア』と得体の知れ ない巨木の戦いのためだけにあったという事実を。

「……お前の言うとおりだということは認める」

弱々しく口を開いた。

「だがわかってくれ、レアリエル。儂はこれが本当に人々のためにと思って──」

「笑わせないでよ」彼女がにらみつける。

「よくそんなことが言えるわね。あんただって祖先と変わらないわ。ただ一人息子を殺された復讐がしたかっただけ。そのために大勢の人間を巻きぞえにし て……何の罪もなかった父様や母様まで……わたしは、絶対にあんたを許さない!」

姪が放つ言葉の一つ一つが心に突き刺さる。崩す。剥がしていく。

ガルナークは全身から力がぬけるのを感じた。やがて肩を落としたその姿に、もはやセラーダの頂点に立つ者としての威厳はなかった。

「とりあえず……今のあんたに言うことはこれだけよ」

息をつき、レアリエルは兜をかぶりなおした。

「はやく鍵を渡して。こうしている間にも、下にいる兵士達の被害は広がっているわ。それだけじゃない。もっと恐ろしいことが起こるかもしれない」

彼女がちらと視線を向けた先には、『ギ・ガノア』の攻撃にさらされ、虹色の波紋をえがき続けている巨木があった。

「もっと恐ろしいこと?」

「説明してる時間はないの」

黒い剣先がさっとこちらを向く。

「嫌だというのなら、本当に殺してでも奪っていくわよ」

切迫した姪の口調に今さら抵抗する気力もなく、ガルナークは懐から『楽園』の金属で造られた小さな鍵を取りだした。相手は張りつめた顔のままこちらへ歩み 寄ってくると、白い籠手をはめた手で、指輪と鍵とをもぎとるようにして奪い取った。

「レアリエル……」

自分でも何を言おうとしているのかわからぬまま、ガルナークはすがるように姪の名を呼んだ。だが、彼女はそれに答えることなく黙って背を向けると、足早に その場を去っていった。


*  *  *


階段を一気に下りたところで、レアは大きく息を吐きだした。

緊張の糸が断ち切れる。口しか動かしていなかったといのに、どっと疲労がのしかかってきた。

ガルナークとの八年ぶりの邂逅は終わった。もちろん、これで何もかもがすっきりしたわけではない。長年抱き続けてきたものに対し、納得のいく決着がついた とは思わなかった。だが少なくとも、叔父の命を奪って両親の仇を討つ気だけは完全になくなっていた。そんなことをしても誰一人……自分自身でさえ報われ ないことが、レアにははっきりとわかっていた。

胸の内のわだかまりを振り払うように一呼吸すると、レアは通路を駆けだした。今の自分には、身内との問題をグズグズと考えるよりも前にやることがある。

『ギ・ガノア』の制御室は、さっき見たときと同じく赤い照明に満たされていた。相変わらず専門用語を叫びあっていた技術士官達の目が、再び部屋に姿を現し た少女へいっせいに集まった。

「将軍の許可は取ったわ」

そう告げるなり、レアは士官の一人に鍵を放り渡した。

「はやく獣を停止させて」

士官が手にした鍵を信じられないように見つめる。

「許可を取ったって……本当なのか?」

「本当だからそれを持ってきたのよ。将軍自身に確認してみる?」

「あんたは何なんだ? 将軍の知り合いと言っていたが……」

「同じことを二度言わせないで」

レアが強い視線を向けると、相手は青ざめた顔で口を閉ざした。そのまま一つの台のそばまで行き、中央にある鍵穴に鍵を差しこみ文字盤をたたきはじめた。卓 上にある小さな窓に、光る文字の羅列が流れはじめていく。

「だめだ……」 

他の者達が沈黙をもって見守る中、やがて彼がうろたえた声をだした。

「何がだめなの?」

「停止命令を受けつけない……信号はちゃんと頭脳に送られているのに」

レアをふくむその場の全員が息をのんだ。

「ちょっと──」相手の胸ぐらをつかんだ。「何とかしなさいよ!」

「ど、どうにもならない。これはきっと頭脳の方で命令を拒絶しているんだ」

「どうにもならないじゃすまないわ。あんた達はこの獣に詳しいんじゃないの?」

「たしかに我々は『ギ・ガノア』の仕組みと操作について多くを学んできた。だが……その根幹である頭脳に関しては別だ。これだけは、現在の人間が理解するにはあまりにも高度すぎる技術の結晶なんだ。その頭脳が独自の判断で獣を動かしてしまっている以上──」

「能書きなんていいわ。ようするに、肝心の部分は自分達の手に負えないってことでしょ? そんな兵器をよく持ちだす気になれたわね」

士官の胸ぐらをつかんでいた手を放し、レアは皮肉をこめて言った。相手が息をあえがせながら答える。

「私達だって……そこまで愚かじゃない。あらゆる事態を想定して、『ギ・ガノア』の始動までには気の遠くなるような試験を重ねてきたんだ。だが何ひとつ問 題は起こらなかった。獣は祖先の残した仕様書通りにちゃんと動いてくれていたんだ。それが『楽園』に着いたとたんに勝手な行動を取りはじめるなんて……誰 に予想できたというんだ?」

技術士官らの沈痛な表情。多くの人間と同じく、彼らもまた過去の人間が造りだした偽りに欺かれていた者達なのだ。これ以上責めるのは酷だし時間の無駄だろ う。

どうする?──レアは部屋の前方にある板≠にらんだ。そこには、いまだ悠然とそびえている『樹』の姿が映しだされている。その下へと向かったイノとラ シェネ。二人のためにも、何がなんでもこの獣は止めなければならない。

そのとき、だしぬけに耳障りな音が部屋中に響きわたった。

「どうしたの?」

ビービーという悲鳴じみた断続的な音に、どこか胸騒ぎを覚えたレアがたずねる。

「『終の光』に必要な動力が貯まりつつある……また撃つつもりだぞ!」

別の台に駆け寄った士官が声を上げた。

「『終の光』?」

「『ギ・ガノア』の最強の兵装だ。いま撃っているものとは比較にならない威力を持っている。だが、膨大な動力を必要とするために連続しての使用はできない ──」

「それは、はじめに『楽園』を貫いた大きな光のことを言っているの?」

「そうだ。必要な動力が貯まったら……『ギ・ガノア』はまたあれを使う」

獣の口から放たれた膨大な光が『楽園』を半壊させていった光景を思いだし、レアの全身が怖気だった。

「やめさせて! このままじゃ外で戦ってる人間も巻きぞえになるわ!」

「だから無理だと言ってるじゃないか!」

これまでなんとか平静を保とうとしていた相手が、ついに感情をあらわにした。

「最後の切り札だった停止命令さえ無視された。もう『ギ・ガノア』は兵器じゃない。自分の意志で動いている本当の獣だ! 俺達に打つ手なんてない!」

そして力なくうなだれる士官と。青ざめた顔の人間達を嘲笑うように鳴り響く警告音と。

二度目の『終の光』は、『樹』にある子供達の怒りをさらに爆発させるだろう。そうなれば、今の状況ですら危ういシリアが、さらに絶望的な状況まで陥ってし まうのはあきらかだ。もし、彼女に万一のことがあれば、自分達の戦いの何もかもが無駄になってしまう。

レアはうつむき唇を噛みしめた。スヴェン達の手も借りて死に物狂いでここまで来たというのに、獣を止めるどころか、なすすべもなく見守ることしかできな い。

何もできない自分……結局はそういうことだったのか?

『レアは何もできないなんてことはないよ』

瞬間、脳裏に浮かんだ言葉。決して忘れることはない言葉。大切な彼がくれた大切な言葉。

そうだ──まだ終わったわけじゃない。

「あんた達、この獣の頭脳以外の仕組みについては、詳しいんだったわよね?」

レアは顔を上げ、黙りこくった士官達を見渡してたずねた。

「え? ああ……その通りだが」

「だったら教えて。どこを壊せばコイツを止めることができるの?」

「壊すだって?」驚きの声が上がった。

「ええ。このバカ犬がどうしてもこっちの言うことを聞かないのなら、ぶん殴って言うなりにさせるしかないでしょ」

獣を直接破壊することはラシェネに止められている。しかし、安全に停止させることができないとなれば、強引な手段に訴えるしか残された手はない。

「それはそうだが……」

「時間がないわ」と相手の喉もとに剣を突きつけた。「あんた達が迷っている間にも、外では多くの人間が犠牲になっているのよ? ここでわたしに殺されるか、 バカ犬を止める一番手っ取りばやい方法を教えてくれるか、どっちかにして」

「そ、それは心臓部まで行って『生命の炉』から動力を供給するための管を破壊することだが……しかし、どうやって破壊するって言うんだ? その管もふくめて、『ギ・ガノア』の心臓部はすべ てが『楽園』の技術で造られている。私達の武器では傷一つ付けられない」

「これがあるわ」

レアはレマ・エレジオを装着した右手をかざした。

「あんた達にはすぐわかるでしょうけど、これも『楽園』の技術で造られた武器よ。鋼鉄だろうが、『楽園』の金属だろうが問題なく壊せる」

「しかし、やはり我々の一存では……」

「その子の言うとおりにしてやれ」

とつぜん会話に割って入った声の主に、全員が視線を向ける。

「ガルナーク将軍!」

「『ギ・ガノア』の破壊は儂が許可する。二度と鎖に繋げないのなら、殺すより他あるまい」

「ですが、獣を失うことになればこの戦は……」

「今の有り様を見ろ。獣による我が軍の被害はますます広がりつつある。このままでは撤退すらままならず全滅することになるぞ。『聖戦』は……失敗だ。い や、そもそも『聖戦』など存在しなかった。我々は祖先に欺かれていた。取りもどすべき『楽園』という至福の地は……とうに失われていたのだ」

憔悴しきった顔で、ガルナークは吐きすてた。

「ひとまずこやつを止めるのが先だ。『終の光』を再び撃たせるわけにはいかん。すべての責めは儂が負う。誰でもよい、その子を『生命の炉』まで導いてや れ」

「わ、わかりました」

停止操作を行った士官が慌ただしく立ち上がった。そして、レアに着いてくるよう目配せすると通路へと向かっていく。

すぐさま後を追って駆けだしたレアの耳に、ガルナークが何か声をかけてきたのが聞こえたような気がした。

ほの暗い通路に響きわたる靴音。叫び続けている警告音の間隔は、しだいに短くなっていく。


*  *  *


「おい!」

ドレクの上げた声に、スヴェンは『ギ・ガノア』の姿を仰いだ。

レアの後を追って獣の内部に突入する機会をなかなか得られず、周囲に集まっているセラーダ兵とともに、頭上から降り注ぐ砲火をかいくぐって迫ってくる 『虫』達を迎撃している最中のことだった。

スヴェンは目を細めた。何者にも阻まれることなく進んでいた獣が、その動きを止めている。

一瞬、レアが目的を達したのかと思った。だが、獣から放たれる光が止む気配はない。

やがて『ギ・ガノア』が巨大な四肢を動かし、その場に踏んばるような姿勢を取りはじめた。頭を突きだし、らんらんと輝く瞳を前方にそびえ立つ『樹』にすえ て口を開く。大量の呼気を吐きながら、その中から巨大な砲身がせりだしてくる。

「やべえ。またあのどデカいのをぶっぱなすつもりだぜ!」

ドレクが顔色を変えた。

たった一撃で周囲にある広大な瓦礫の山を築きあげた獣の光が、スヴェンの脳裏によみがえる。

「前で戦ってる部隊を下がらせろ!」

右手にいる部隊長らしき兵士が決死の形相で叫ぶ。『楽園』に踏みこんだとき、彼らはあの光が仲間達を巻きぞえにしたのを間近で目撃しているのだ。自分達以 上に恐怖するのは当然だろう。

しかしその叫びも、この混沌とした状況では意味をなさなかった。今や大勢の兵士達が、砲撃される危険の少ない『ギ・ガノア』の近辺に群がっている。すでに 統制は乱れ、各々が必死で戦っている状態なのだ。そんな中を大人数がすみやかに移動などできるわけがなく、かといって外部に逃げようとすれば、そこには死 をもたらす光の雨が待っている。そして、こちらの事情にはいっさいおかまいなしに、『虫』の群れはより数を増して攻め寄せ続けている。

このままでは再び多くの兵士達が犠牲になる。獣の前面にいないとはいえ、自分達だって十分に危ない。それがわかっていながらも、どうすることもできない焦 燥にスヴェンは歯がみした。

『ギ・ガノア』の腹部にある入口を祈る思いで見つめる。もはやあの中へ潜入していったレアだけが頼みの綱だ。

やがて砲身の先に血の色をした花弁が開く。周囲に青白い光が満ちはじめていく。



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